ボクの独り言 #03

ボクの独り言 #03

木村硝子店3代目社長である木村武史が、思ったこと、考えたことをぽつぽつ呟きます。
聞き手・吉田佳代

木村 武史(きむら たけし)
1943年東京生まれ。木村硝子店3代目社長。

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僕が影響をうけた言葉3「科学」
ガラスは液体であり個体でもある、という話

「科学」は、実験と解析によって成立しているという話を、大学の、しかも政治学の講義で聞いた。科学の定義って難しくて、自然科学(自然を研究する学問)も社会科学(社会を研究する学問)も、調べるほどにさまざまな分類が出てくるし、政治学だって社会科学。つまり、科学の1つなんだよね。

この話をしてくれたのは、政治学者の尾形典男先生だった。先生の「感情を交えず、論理的に絶対的にこうであると複雑な物事を考え、整理していく。それこそが科学である」という基本論に、僕はえらく簡単な理解でもって、「なんだそうなのか」と思った。
例えば、イヌ科、ネコ科という分類があったとするでしょう。するとまず、この動物はイヌなのかネコなのかを考えるわけです。次にイヌとは何か、ネコとは何かを問う。イヌとはこうだ、ネコとはこうだと説明する。お次はイヌの条件、ネコの条件をそれぞれ突き詰めていく。もちろん感情抜きで。
つまり、「自分の感覚とは関係なく、実際に黒なら黒、赤なら赤。事実がそうであればそうだ」という話だよね。人によって少しずつ見え方は違うのかもしれないけれど、黒なのに強引に赤だと言わせるとか、あるいは自分がそう思い込むみたいなことは、科学ではないっていうことだ。こういったモノの捉え方は、僕のベースになっているようにも思う。

さて、授業ではガラスの話は特になかったけれど、うちはガラス屋だから、「じゃあガラスは、科学的にどういうものなの?」と、僕自身の暮らしに置き換えて考えたいと思った。とりあえず辞書を引いてみた。今みたいにネットがあって拾い読みができたら、すぐにイメージできたのかもしれないけれど。
調べて知ったのが、ガラスという物質は、まだまだ未解明の部分が多いが、現状では「液体」に分類されているということだった。僕にとってガラスは身近なものではあったけれど、固体だ液体だって、そんなふうに捉えたことはなかった。 
ガラスは、触れたときの感触は冷たくて硬い。でも、固体ではないのだという。難しいことはわからないけれど、固体は、分子が規則正しく並んだ配列をとる結晶だが、ガラスの内部はランダムに詰まった構造になっていて、いわば、「動きが凍結した液体=ガラス状態」というのだそうだ。つまり、満員電車の鮨詰め状態と同じく、常に動いている。分子の再配置が常に起こっている。
ガラスは割れるでしょう。それこそが、厳密に動いている証拠なのだそうです。

でも、最近は少し考え方が変わってきているということを知りました。「ガラスは液体であり固体である」という新しい定義、分類が生まれてきているみたい。何にしても、ガラスにはわからないことがたくさんある。それを解明するのが「科学」だということですね。

 

<参考>
*日本物理学会会報(2016)「ガラスは固体?液体?」
*東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 研究発表論文「ガラスは固体と液体の中間状態」(水野英如、池田昌司)

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吉田 佳代(よしだ かよ)
フリー編集者、ライター。
東京生まれ、立教大学卒業。
出版社勤務を経て、2005年に独立。食からつながる文化や暮らし回りを主に扱う。書籍や雑誌、広報誌などの編集のほか、インタビュー取材も多い。


読みもの一覧

ふむふむ、木村硝子店の仲間たち。/ライターの吉田佳代さんによる、木村硝子店とその周りの人々のおはなしの。

木村硝子店のグラスと私の日常 /木村硝子店のグラスについて、いろいろな方々にエピソードを頂いた短い文章。

ボクの独り言/3代目社長・木村武史が思ったこと、考えたことをぽつぽつ呟きます。

お酒と料理とグラスと/IMADEYAのお酒と、minokamoの料理と、木村硝子店のグラスのコラボ企画。

GLASS STUDY/流しの販売員・新貝友紀さんの文章による、硝子やグラスについてのあれこれをまとめた記事。

おおたきワイン/ワインインポーターのおおたきさんにワインのことを分かりやすく楽しく教えてもらおう!という企画。