ボクの独り言 #02
木村硝子店3代目社長である木村武史が、思ったこと、考えたことをぽつぽつ呟きます。
聞き手・吉田佳代
木村 武史(きむら たけし)
1943年東京生まれ。木村硝子店3代目社長。
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僕が影響をうけた言葉2「客観」
ゾウを客観的に見れない僕
僕は、もともとあまり「客観的」という言葉を使ったことがなかったの。でもね、学生時代に、政治学者の緒方典男先生の授業をきいてからは、全く使わなくなってしまった。使うチャンスがなくなってしまったと言えばいいのかな。
「客観」というのは外側から見て、という意味だよね。いろんな意識をもった人がそれぞれの方向から見ると、見る方向によって見え方が違うということ。見ている人の意識によっても見え方は違う。それを総称したのが客観ということになる。
先生の細かい説明は忘れてしまったけれど、例えば、ゾウを客観的に見るといっても、見る方向で全然変わるでしょう? お尻しか見ていないのと、前から鼻しか見えないのとでは違う。つまり、見る向きや、どういう主観で見るかによっても見えるものが違ってくるし、突き詰めると辻褄が合わなくなってくる。
その人の都合のいい客観というものもあるでしょう。主観と客観が混ざり合っているようなね。単純に、「こちらからみて客観的に」みたいな軽い言葉はまあいいと思うの。でも僕はその、軽い感じの「外側から見て」っていう言い方もできなくなってしまった。テレビなんか見ていても「客観的に意見を申し上げますと……、」みたいに話す学者が出てきたりすると、「フーン、客観的かぁ……」って思ったり。
少し話はずれるけれど、僕は昔から企業のカタログを見るのが好きで、穴が開くほどにしょっちゅう眺めていた。それで、「この会社はどんな考え方で商品作りをしているのだろう」とか、「商品デザイナーはどんな考え方をしているのだろう」とか、「こういう商品を作っているということは、こういう考え方をしているのだろう」などと想像するのが好きだった。
実際の商品を見ながら、これをデザインした人が、組織の中のデザイナーとしてやりたいことをどのくらいできているかについても想像を繰り返した。多分、議論をした結果の商品作りなのだろうけれど、どんな議論だったかについてさえも、あれこれ考えを巡らせた。
いつだったか知り合いに、「あなたの会社ってこうだよね、ああだよね」って思ったまま話をしたら、「なんでそんなにうちの会社のこと知ってるんですか?」って言われたことがあって、その時はとても驚いたけれど。
こういう行為自体は「客観」なのかもしれないけれど、もっと違った客観もあると思う。するとやっぱり、この言葉を簡単に使うことはできないと感じてしまうんだよね。
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吉田 佳代(よしだ かよ)
フリー編集者、ライター。
東京生まれ、立教大学卒業。
出版社勤務を経て、2005年に独立。食からつながる文化や暮らし回りを主に扱う。書籍や雑誌、広報誌などの編集のほか、インタビュー取材も多い。