木村硝子店のグラスと私の日常 /021
葡萄酒とバッハ。
私どもの酒場にとって最も大切な音楽家の一人、バッハ。
開店時間には、いつもバッハのレコードをかける。
バッハの音楽は私たちに圧倒的な何か大きなものを提示する。
天啓のような。
その名を冠したグラスでワインを飲む、バッハ礼賛。
バッハの音楽を聴きながら葡萄酒を飲む悦よ。
例えばロワールのシュナンブラン、
ラ・クーレ・タンブロジアのパニエド・フリュイ2017をこのグラスで。
側面が長いこのグラスを傾けると唇にワインが触れるまでゆっくりと時間がかかる。鼻腔で香りを聴き、風味を味わう時間が長く持てるのだ。「フルーツバスケット」と名を冠した液体の、アプリコットや黄桃、りんごの蜜の果実味を思う増分にあふれさせる。葡萄のエネルギーを素直に身体に届けてくれる。
グラス一杯のワインにはグラス一杯の自然が満ちている。
ヴィニョロンが風土からすくい取った「自然」を、わたくしたちは身体で感じとる事が出来る。都市生活をする我々を自然へ繋ぎとめてくれるのはワイン体験だ。
ワインを飲み、自然を慈しむ気持ちを喚起すること。
J.Sバッハの音楽を聴き、宇宙の律動を想起すること。
共通していると思うのだ。
text:小島 麻貴二(ワイン食堂 margo 給仕)