木村硝子店のグラスと私の日常/028
25年も前、会社勤めしていた頃、取引先からグラスを探すように頼まれた。
見本を預かり、先輩のサトウさんに尋ねたら、木村がカタログに載せていない謎のグラス、“サンピン”だという。
サンピンは “底磨き”と“磨きナシ”の二種類があり、“底磨き”は、わざわざ底面を切子屋さんに出して磨いているという。磨いた底をなでると縁がキリッと立つ、そんな微妙な違いにこだわるお客様のために作られているグラスだとサトウさんは教えてくれた。
そのグラスを求めた方は、銀座の裏通りの焼き鳥屋さんだった。カウンターだけの、味はいいが良心的な価格の店はいつも満席だ。人がすり抜けると背中を押されるほどの細いカウンターで使うにはリスクの大きいグラスだ。
店はサンピンを選んだ先代から息子さんに代替わりしたが、今も店ではこの極薄グラスに日本酒が注がれる。
サンピンは日本酒が合う、と教えてくれたのはこの店だ。
ビール用、と決め込んでいる方はぜひお試しを。
text:日野 明子(スタジオ木瓜)