木村硝子店のグラスと私の日常/054
夏になると、小さな私のお使いといえば、近所の氷屋さんに行き、天然氷を切ってもらって、固まりを2つ持って帰ることだった。下町に育った私の家の冷蔵庫は小さかったので、二層式の洗濯機をきれいに洗っておいて、そこに氷とスイカと瓶ビールを冷やしておくのが夏の決まり。
田舎から送られてきた梅干しと鰹節とを叩き、紫蘇と一緒にかまぼこに挟むのが、母の定番先付だった。
時間を見計らい、氷水からビールを取って、父のところに持っていき、栓を抜く楽しい役割を、私は母から仰せつかっていた。
このコップに注ぐと、いつも泡だけがあっという間に溢れ、竹籠のコースターがビールまみれになった。それを見ている父は、いつも楽しそうだった。
私は同じこのコップに麦茶を入れて、乾杯して父の蒲鉾を食べた。チビチビと飲みながら、食べるのがまた美味いのだ。
text:宇南山 加子(株式会社 SyuRo デザイナー)
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