おいしいグラス vol.1 後編

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前編はこちら

ケーススタディ2:君嶋屋試飲会 

さて、次はたまたま君嶋屋さんというワインインポーターの試飲会に顔を出す機会もあったので、いろんなタイプのワインとの相性を探ってきました。 

まず最初に試したのは、いろんな要素が繊細で軽めのタイプの白ワイン。
フランスはロワール地方で造られる、ドメーヌ・ピエール・ルノー=パパンのミュスカデ2種類を、一般的なテイスティンググラスと、ウィーン135で飲み比べてみました。

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写真左のキュヴェ・ヴェルジェはスタンダードレンジのもので、右のキュヴェ・ル・エル・ドールは、この地域では珍しい花崗岩土壌の区画のみで造られている樹齢40年の上級レンジです。テイスティンググラスで飲んでみると、共に香りの印象はすごく分かりやすく出てきますが、味わいが平板でふたつのキュヴェの差異もわずかにしか感じられませんでした。
しかしウィーン135で飲んでみると、その印象はガラリ。
味わいの情報量が正しく伝わると言えばいいのかな。分かりやすく数値で例えると、要素が5と8位にしか伝わらなかったそれぞれが、12と40位に感じられるんですよ。
うっすらグレープフルーツシトラス風味のフレッシュなワインという印象しかなかったヴェルジェは、そこにミネラルの複雑さや、薄いながらもある確かな旨みがきちんと伝わったし、ル・エル・ドールに至っては、カリンや黄色い果実の熟した旨みだったり華やかさだったり上品さだったり奥ゆかしさだったりがたっぷりと感じられました。

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同じような繊細なタイプのプロヴァンスのシャトー・サン・バイヨンのロゼや、ドメーヌ・ド・ラ・サラジニエールのアリゴテ(白ワイン)においても同様の傾向であったことから、このグラスが繊細な味わいのワインに対して有用性が高いってことを改めて実感。次にこの流れで当然気になるのは、逆のしっかりしたタイプの赤ワインですよね。
という訳で次に試したのは、君嶋屋さんの看板アイテムのひとつ、ドメーヌ・ミシェル・エ・ステファン・オジェのコート・ロティ。
フランス、ローヌ地方のなかでもエルミタージュと並んでもっとも高級でしっかりとした味わいのワイン。こうした高級ワインは、当然情報量も多く、テイスティンググラスで飲むと、香りの要素が複雑で強すぎて、小型テレビで鑑賞する第九のコンサートのようにごちゃごちゃなのに薄っぺらい感じがするんですよね。でもウィーン135で飲むと、小型の良質なオーディオセットで鑑賞しているような良さがあるんです。
勿論スケール感や奥行きに限界はあるのだけれど、そこにあるものの深みは確かに伝わる。こういった意味ではすごく優秀なワイングラスなのだと思ったのでした。

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こうやってたのしもう:「タベルナ・クアーレ・クラシケ」でトスカーナワイン  

この他にもインポーター、ヴィーノ・ハヤシさんの試飲会、そして地元の居酒屋でお茶割りまで試してみましたが、総じていろんなシーンで活躍してくれることが分かりました。

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こうしてこのグラスをもっとも愉しめるシチュエーションを考えた結果たどり着いたのは、原点回帰。
祐太郎君が出逢った感動が、そのままグラスの魅力を伝えるのにいちばんなんじゃないかという訳です。
イタリアのアナログであたたかな雰囲気があるお店で飲む同じようなトスカーナワイン。
そこで真っ先に思い浮かんだお店がこちら、恵比寿と広尾の間にあるイタリアがぎゅっと詰め込まれたイタリアン、「タベルナ・クアーレ・クラシケ」です。 

電車一両分のような形状の店内は、木製のカウンター数席と4人ギリギリ座れるかというテーブル席のみ、そして写真やポスター、お皿から灰皿に至るまで、全てにオーナー福地さんのイタリア好きが染み込んでいます。できて僅か2年弱だというのに、道行くご近所の方々がたくさん挨拶して通るんですから、ここの魅力はもう説明する必要もないですね。

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そして持ち込ませて頂いたワインは、ファットリア・ディ・ピアッツァーノのヴェントーゾ2012年。
トスカーナでも、もともとは植えられていなかった国際品種(カベルネ・ソーヴィニヨンなどなど)が入っていることが多くなってきた昨今、昔ながらのブドウを昔ながらの手造りでワインにしている貴重な造り手さんのお手軽な一本です。

さて試飲。このグラスは、いい意味でするっと入ってこないから、ヴェントーゾの厚みや複雑さ、洗練されていない田園牧歌的な味わいが、一層ナチュラルに感じられて、やっぱり今まで飲んだどんなグラスで飲むよりも旨い。そして同じように手作り感満載のサルシッチャ(ソーセージ)との相性は、言うまでもありません。
粗挽きの肉の旨みとワインの旨みの広がりや洗練されていない素朴な感じが同じだから合わない訳がないんですよね。
他にもサルティンボッカ(仔牛と生ハムのセージバター焼き)と合わせてみましたが、仔牛のやわらかな質感やセージバターの香りや脂の広がりとの相性も印象的でありました。

 

さて、今回の結論です。
ウィーン135のキーワードは、「手作り感、あたたかみ」です。
工業生産的だったりスタイリッシュだったりするワインやアーバンなレストランにだけは合いませんが、気心の知れた仲間や、そういった人を連れて行きたくなるようなお店、そしてそうしたワインの横にこのグラスがあれば、そこで過ごす時間は、何倍も和やかになるでしょう。

 

取材協力:

厚切り牛タンと肉おでん アカベコ

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イタリアンを4店舗経営するスヌーピーのようなオーナー、古賀ちゃんが作った5店舗めがなんともゆるい居酒屋業態。イタリア料理のボリートミストをもっと親しんで欲しいから作ったそうです。看板になっているこれらの料理はもちろん、お番菜のようなメニューや東京ではなかなかお目にかかれない佐賀の日本酒などもおいしいのでオススメです。
因みにこちらのお店では、ウィーン135は日本酒用のグラスとして活躍中。
〒153-0051東京都目黒区上目黒2-12-3 tel.03-5794-8283
Facebookページ 

タベルナ・クアーレ・クラシケ 

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こちらのお店の紹介はけっこうしてしまったので、他店の紹介も。タベルナ・クアーレ名義では、ここの他に恵比寿、銀座、青葉台で展開しています。が、個人的なお薦めは、渋谷のんべい横丁「莢」が週1日だけクアーレになる月曜日。おつまみは限られているし、ワインは1.5リットルの赤と白しかないけれど、福地さんのイタリア話や機械修理話を肴に飲む一杯は格別ですよ。
〒150-0013東京都渋谷区恵比寿2-26-6 tel.03-3447-4228
クラシケのFacebookページ 
「莢」の食べログページ 

 

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<今回オススメのワイン>
ヴェントーゾ 2012 ファットリア・ディ・ピアッツァーノ
(IGT コッリ トスカーナ チェントラーレ)

生産者も把握していないという伝統品種10%っていうところがポイント。きっと白ブドウとかも入っているであろうそれらが、トスカーナやキャンティが本来持っていたであろう味わいの深みやあたたかさを授けてくれています。そしてこの陽気で晴れやかな味わいは、今回登場してくれた方々みんなに共通する魅力でもあります。
ブドウ品種:サンジョヴェーゼ70%、カナイオーロ20%
      その他トスカーナの伝統品種10%
希望小売価格:1690円(輸入元・アズマ・コーポレーション

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<ウィーン135>
グラスワインのためのグラス
ボルゴノーヴォ社に小ネタを問い合わせてもらったところ、1970年代には生産されていたとても古いデザインのもので、特にヴェネト州のトラットリアなどで人気だそうです。
この地域では昔、脚付のグラスなどではなく、みんなこうしたシンプルなタンブラーで飲まれていたそうです。また、ヴェネト州の方言では、グラスワインのことを「オンブレッタ・デ・ヴィーノ(ombretta de vino)」と呼ぶそうで、このグラスは、まさに「ombretta de vino」のためのグラスだとのことでした。
この話を聴いてから、ボクもヴェネト州の定番ワイン、ソアーヴェとヴァルポリチェッラを飲んでみましたが、やっぱりぴったりでした。みなさんもぜひお試しくださいね。
ウィーン135の詳細ページ

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小田祐規
1977年5月31日生まれ。
O型、双子座、動物占いはオオカミ。
学生時代のバイト先で3滴だけ飲んだレ・フォール・ド・ラトゥール1990年でワインに覚醒める。バブルの名残りのようなワインバー、タストヴァン青山のオープニングメンバーとなったことで、早くからボルドーやブルゴーニュ、カリフォルニアの高級ヴィンテージワインに触れる機会に恵まれる。2003年、手取り30万のレストラン勤務に誘われたタイミングと同時に時給1000円でならどうぞと言われ、美術出版社「ワイナート」編集部へ。2012年よりフリーランスとなり「Wi-not?(ワイノット?)」、「WINE-WHAT!?(ワインホワット!?)」に関わりつつ、レストランのワインリスト作りやワインイベントのしきりなどもこなしつつ現在にいたる。趣味は、ワイン、日本酒、その他酒、食、珈琲、音楽(クラシック、ジャズ、ロック他)、読書、映画、オーディオ、美術、終電を逃した後の家までの散歩。夢は、仲間とたのしくおいしいお店を作ること。
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