おいしいグラス vol.1 前編
まずはじめに:おいしいグラスって?
はじめまして。
私ワイン雑誌の企画・編集・営業などなどを生業としております、小田祐規と申します。
この連載を始めるにあたって、まずは簡単に事の経緯を話しておきたいと思います。
木村硝子店によくある問合せのひとつが、「このグラスは、どんなワインに合うの?」といったものだとか。
「常駐して問合せ対応しましょうか?(小田)」
「祐太郎さんの後ろ空いてるから、そこ使ってくださいね。ワインに関係ないクレーム対応までお願いしちゃいます♪(木村硝子店デザイナー三枝さん)」
などと冗談交じりで話していたところ、なにがどうなってか「どうせだったら実体験をもとにした、いろんなグラスの愉しみ方が分かる読み物を作ってくれない?」というユニークな展開となり、本企画が動き出したのでございます。
という訳でこれから私、小田祐規は、日々お題をいただいたグラスを持ち歩き、各所でその子がおいしく愉しめるワインやシーンを探していきたいと思います。
ウィーン135:第1回がこのグラス?
「コップやん。」
「これワイングラスちゃうやん。」そんな声が聴こえてきそうですねー。(笑)
でもなにを隠そうこのグラス、祐太郎君(木村硝子店のバイヤー兼グラスデザイナー。)がトスカーナのトラットリアで出逢い、そのフォルムと味わいに感動し、3年越しで輸入にこぎ着けた新商品。れっきとしたワイングラスなのです。
去年の暮れに発売されたばかりなのに、既にコアな愛用者も少なからずいて、某ワインインポーターのO瀧さんなどに至っては、家飲みワインを殆どこのグラスで飲んでいるらしいですよ。オーストリアワインファンの彼にぴったりな名前なのも、なにかの縁でしょう。
さて、このグラス、実はイタリアにあるボルゴノーヴォ社のもの。
その特徴は、ワイングラスらしからぬ形状は勿論だけれど、なんといっても時代の流れに反した5mmはあるであろうその厚み。
これが口当たりの柔らかさに繋がり、すっきりとしたキャンティなどを飲んでも、その味わいに独特の厚みや懐深さを添えてくれます。手に持ったときのしっくり感や安心感は、「まぁまぁ、そんなかしこまらず気楽に飲みましょうよ。」とでも言ってくれているようです。
ケーススタディ1:中目黒「アカベコ」の一升瓶ワイン
このグラスを渡されたその日が、仲良しなイタリアンのオーナーさんが初の居酒屋業態を始めるプレオープン日ということもあって、さっそくこちらで試してみることにしました。
どうですかこの一升瓶ワイン「北極星」とのしっくり感。たまりませんね。
選択肢がこれしかなかったのだけど、このグラスにはぴったりじゃないですか。
実際味わってみると、もともと酸が低く甘みの強いワインではあるのだけど、そこが一層強まるイメージ。
勝負デートや商談のように、「かしこまってきちんとワインと向き合って」といった類のワインやシーンには向きませんが、気心の知れた仲間との語らいの場や、気楽にゆる~くまったりたのしむときにはもってこいのグラスですよ。
お店の都合もあって、このまま日本酒までたのしんでしまいましたが、これらも同じです。
新潟の純米大吟醸や獺祭のそれのようにキリッとキレで勝負といった類の日本酒には向きませんが、丸い味わいの純米酒にはぴったりです。白身の刺し身を塩レモンで食すよりも赤身や青魚を九州の濃い醤油で食べた方がしっくりくるし、煮込みなんかは鉄板ですね。
ちなみにグラスの厚みがあるから、お燗もたのしめちゃいます。
この連載、基本ワインの話でいこうねって打合せだったけれど、
これくらいはいいよね?笑